磁性流体シールとは

磁性流体シールは、気体の漏れを防止するために用いられる部品であるシール(密封装置)の1つです。
磁性流体シールは、『磁性流体』という磁石に引き寄せられる不思議な液体が磁場中に保持される性質を利用して密封する、回転運動用のシールユニット製品です。

回転運動用シールとは

回転運動部は回転軸と固定部(ポールピース)の接触をさけるために、図にようにクリアランスが発生します。容器内の真空状態、加圧状態を維持するためには、このクリアランス部を密封(シール)することが必要になります。通常はOリングやオイルシールでシールするのですが、回転体であるために、経時による摩耗が発生します。

回転機構イメージ図
シール分類

磁性流体とは

磁性流体とは、液体にもかかわらず鉄のように磁石に引き寄せられる液体です。1960年代、NASAの宇宙計画に関連して開発されました。磁性流体はマグ ネタイトや複合フェライトなどの強磁性超微粒子、界面活性剤、水や油などのベース液の3つの成分から構成されています。直径10万分の1mm(10nm) ほどの強磁性超微粒子のまわりには、粒子同士の凝集を防ぐための界面活性剤が被覆しており、ベース液中で安定な分散状態を保っています。この安定な分散状態は強磁場の中でも失われません。

磁性流体分散モデル

内部機構

磁性流体シールでは、回転軸とポールピースのすき間に、マグネットによって形成される磁束線に沿って磁性流体が保持されています。
磁力によってすき間に保持された磁性流体は、圧力差があっても流れ出すことなく、液状のOリングのような働きをします。
磁性流体が保持される強さは磁力によって決まり、磁力が強いほど磁性流体のリングの耐圧は大きくなります。
この磁性流体のリングを複数段形成することにより、大きな差圧にも耐えられる磁性流体シールができあがります。

磁性流体シールの基本構造(2D)
磁性流体シールの基本構造(3D)

磁性流体シールの利点

  • コンタミレス

    Contamiless

    シール材に液体を使用する
    ため、回転軸とポールピースとの間に固体同士の接触がなく、摩擦によるパーティクルが発生しません。

  • 長寿命

    Maintenance free

    回転軸と固定部(ポールピース)との間に固体同士の接触がないため、摩擦による両部品の損耗がなく、省メンテナンスで長寿命なシールを実現することができます。

  • 高真空・高耐圧

    High vacuum
    High pressure

    低蒸気圧の磁性流体を使用することにより10-6Pa以下の超高真空領域でも使用可能です。
    また、耐圧仕様の磁性流体シールでは1.0Mpaまで使用可能です。

  • 高速回転

    High speed rotation

    液体でシールするため、損失トルクが少なく、高速回転も可能です。

運動用シールにはさまざまな種類がありますが、真空中への回転導入に使用する代表的シールは、磁性流体シール、オイルシール(ウィルソンシール)、Oリングシール、ベローズシール、マグネットカップリングシールの5種類です。

下記比較表の通り、他シール機構と比較しても磁性流体シールは利点が多いことがわかります。

磁性流体シール オイルシール
(ウィルソンシール)
Oリングシール ベローズシール マグネット
カップリングシール
使用可能な
真空領域
超高真空 高真空 高真空 超高真空 超高真空
回転速度 高速回転 低速回転 低速回転 低速回転 低速回転
許容伝達トルク
(回転軸強度に依存)

(回転軸強度に依存)

(回転軸強度に依存)

ロストモーションあり
発塵 極小
寿命

ロストモーションとは、回転および加減速時に発生する追従の遅れのことです。

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